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やってきた当日。スクアーロ以外のヴァリアー幹部は、この日までにスクアーロが作った死体の数を数えていた。



「う゛おおぉおい!滾るぞお!」


「うん、浮かれてる所悪いんだけど、お願いだからそのまま事に及ぶとかそういう馬鹿なことをしないでね?」


「うしし、ルッスってば・・・いくらカス鮫先輩だからってそこらへんはわきまえてるんじゃ・・」


「どうしてだあ!?」


「・・・・弁えてるわけもないか。この下半身暴走男が。」


「嫌だわほんと、ボスの趣味を疑っちゃう。いいこと?チョコを貰っても、そしてボスがどんなに愛らしかろうと、 そこは男の余裕をみせて有り難う、愛してるよハニーくらい言っとけばいいのよ!」


「嫌だ!だってしてえもん!」


「もんとか言うな気持ち悪い・・・・ボスが不憫でならん・・・」


「いいから言うこと聞きなさいよゴルァ!!!むかつくのよイベントだからって浮かれちゃって万年キチ外男のくせに!」


「どうしたんだよルッスーリア、生理でもきたのー!!」


「ぎゃはは、くるわけねえだろぉ!」


「ルッス、昨日ふられたらしいよ。」


「あー・・道理で・・・」



扉が音を立てて開いた。現れるは我らがヴァリアーボス、ザンザス様だ。後ろに続く部下が 巨大な箱を抱えている。



「あっれーボス!またすごいの持ってきたね!」


「ああ、これはお前らにだ。みんなで食え。」



そういって箱を開けさせた。中には直径が60センチはあろうかという巨大な三段のホールケーキ。



「うっそ・・・・まさかとは思うけど、これボスが作ったんじゃないよね?」


「俺が作った。」


「ええええ!?まじ?食べたら人格崩壊とかしない?」


「・・・・お前食わなくていいよ。」


「自分は食べます!」


「おう。さっさと食え虫けら共め。」



レヴィが率先して切り分けようとしたが、彼の手にかかっては立派な三段ケーキも一瞬にして 総崩れすることが目に見えていたので、代わりにルッスが切り分けた。その時ルッスーリアは目にみえぬ 圧力によって耐えがたい緊張に襲われた。





「う・・・・うまい・・・・」


「ボス!大変美味です!このレヴィ、生まれてこのかたこんなにおいしいものを食べたことがありません!」


「なんだこれ・・・なんだ、なんか暖かいものが胸に広がって・・・」


「なにかしら、故郷の母さんを思い出すわ・・・!!」


「ボス、一体どんなチート使ったわけ?まじでおいしいよ!?」


「なんだよお前ら・・・・素直じゃねえな。俺にできないことなんてこの世にあるわけねえだろうが。」



その製造過程を想像したヴァリアーの面々は、一瞬だけ彼の逞しい腕によって攪拌された材料の気持ちになって 身震いをした。しかしそんなことはどうでもいい。むしろその両腕で粉塵と化すまで砕いてほしいとすら願ったという。



「あーまじでおいしい〜!!ボス、また作ってよ!」


「嫌だ。」


「即答!?まあいいや。あとで俺のプレゼントも受け取ってね?」


「またイルリガートルとか送ってきたらぶっ殺すからな?」


「嫌だなー今年は超真面目!ちゃんとお金だって貯めといたんだからさー」


「ボス、僕も後で渡すことにするよ。」


「私も。」


「お、俺もそうします・・・」


「?なんで今くれねーんだよ。」


「うん、後ろの方であまりの興奮にレース直前の競走馬みたいになっちゃってる雄がいるからね?」


「ボス、体は大事にした方が身のためよ?」


「ボス・・・・お大事に・・・!!」



いつも前のめりなヴァリアーの幹部たちが身を引くほど、その雄のあたりの空気は凄いことになっていた。
競馬ならレース前ですでに「あー駄目だ、入れ込んじゃってるよ。」と速攻で駄目だしされること請け合いである。



「ザッ、ザンザスゥうううっ!」


「ふん。ついてこいドカスが。」



なぜか余裕の笑みでザンザスはスクアーロを先導した。興味本位で他の幹部たちも着いていく。
この二人の笑いあり涙ありエロありグロありのハリウッド顔負けなバイオレンスてんこもり愛憎劇は、 辛気臭い暗殺部隊にとってなによりの娯楽なのだ。


ザンザスは自室まで来て足を止めた。誰にも見えなかったが、その顔は勝利への確信と期待で溢れかえっていた。


がちゃりと音を立ててノブが半回転する。もう一度所定の場所に戻る頃には、その場にいた人間に 驚異と感嘆の念が沸き起こっていた。



「す・・・・すごい!ラピュタ!?ラピュタだ!」


「うわー・・・・・・・」


「すごいわ・・・」


「さすがボス・・・!!!」




高さが2メートル、直径は1メートルはあろうかという、ウェディングケーキ並みの大きさと装飾のついた 巨大なチョコレートケーキが鎮座ましましていた。ケーキでありながら漂う風格とその堂々たるたたずまいに、 ベルなどは某アニメの浮島を思い出した。



「どうだ?」


ふふん、と得意げな顔でそっくりかえるザンザス。スクアーロはというと放心しきって良い子には放送禁止すれすれの 顔を晒していた。たとえるならキメるものキメちゃってる顔、とでも言えばいいのだろうか。



「馬鹿面さらしやがって、どうだ、感動しただろう!せいぜい俺を崇めろカス共め!」


「いやーこれはすごいよ・・・!!何度も言うけど、ほんとにボスが作ったんだよね?」


「なんだよ信じねえのかよ。」


「いや・・・!!俺は信じるぜええ・・・・!!!」




ゆらり、とスクアーロが立ち直った。


「今!俺は愛の力を信じた!まじで!今なら俺に倒せぬものはない!リンカーンだろうがガンジーだろうが 俺の前には無も同じ!だって俺にはザンザスの愛があるから!!あっ・・あいがっ・・ううっ・・う、か、かあさーん・・」


いつもより酷いだみ声で愛を語りながら、そのまま涙をこぼし始めたスクアーロ。
どうやらあまりの感動に胎内までタイムスリップしちゃってるらしい。しかるべき専門の人に言わせればトリップという 表現になるのだろうが。
てっきりそのままザンザスを押し倒して早撃ちドキュン★かますのだろうと予想していた 幹部たちは、愛に包まれたスクアーロの様子に只管ドン引きしていた。
そんな外野達をまるっきりシカトして、ケーキをきりわけるザンザス。このスルースキルも、選りすぐりの変態を束ねる ヴァリアーボスには 必須すぎる能力である。
巨大な城の如き威風を放つチョコレートケーキ。それを切るザンザスの手には、なぜか 日本刀があった。シュールすぎる絵だが、あいにくと突っ込む余裕のある者は一人もいない。


日本刀を巧みに操って、軽々と一人分のケーキを切り出すザンザス。それを手にすると、うずくまって 泣きじゃくるスクアーロの肩にそっと手をかけた。



「さあ、かっ食らえドブネズミめ。」


「うっ・・・ザ、ザンザス・・・やっぱり俺にはお前しか居ねえ・・・お前は俺の全てだ!太陽だ!宇宙だ! 俺の目にはお前以外なにも映らねえぞぉ!」


「いいから食えよ。」


「へぶっ」


顔面にパイの要領でザンザスは皿ごとスクアーロの顔になすりつけた。そのままぐりぐりと押し付ける。 どう見てもウエディングケーキ並みのチョコケーキを手作りする仲の恋人に対する手つきとは思えず、 どこか憎しみすら感じるその仕草に不穏な空気を感じ取った幹部達はこっそりと部屋を後にした。
とりあえず引き際が肝心、対岸の火事だからこそ他人事で楽しんでいられるのだ。





「どうだ?旨いか?」


「うん・・・」


「そうか。全部食えよ。」


「へ?当たり前だろぉ?お前がせっかく作ってくれたのに・・・・」


「そうだな。だから、今、全部食え。」


「・・・・・・」





聞き流せない単語が愛しい恋人の口から発せられた気がして、スクアーロは一瞬とまった。



「・・・今?」


「そうだ。ほら、次だぞ。」


固まったままのスクアーロを尻目に、さらに日本刀でケーキをざくざく切りとるザンザス。
良く見るとその腕には血管が浮いていて、彼がありえないほどの力と迸る何かを込めていることが分かる。



「・・・い、一気に、この量を、食いきるのかぁ・・・?」


「そうだ。この俺が、わざわざ徹夜で作ってやったんだからな。まさか、食いきれないなんてこと言わねえよな?」


「ちょ、ちょっと、いくら俺が甘党でも、全部は、ていうか、1週間かけても食いきれるか・・・」


「そんなことしたら味が悪くなるだろ。俺が、せっかく作ってやったんだぞ。」


「・・う゛おおぉい・・・」


「食うよな?」



そう言いながらザンザスは再度皿ごとケーキをスクアーロの顔面に擦り付けた。他のものが見ていたなら、 もはやケーキは悪意迸る凶器にしか見えなくなっていただろう。そして、確実にザンザスはスクアーロを殺しに きていると判断しただろう。しかしそこは思い込んだら一直線の鮫特攻。彼はこの致死量の糖分と脂肪分の塊が、 ザンザスの愛であると信じて疑わなかった。



「よおおぉおし!任せろ!絶対食いきってやるからなぁ!」


「その意気だぞスクアーロ。ほら、次だ。」


「ぶお!」



笑顔でケーキを切って、またスクアーロの顔面に。しかしスクアーロは笑顔だった。二人とも笑顔だった。 地獄とはこのように笑顔咲き乱れる場所であったのだろうか。それでもスクアーロは食べ続けた。






「ほらどうした。まだ5合目だ。」


「う゛・・・・ま、まだいけるぞぉ・・・」



一体どこに消え去ったのか。愛という名の狂気を身に纏ったスクアーロは、どうにか半分ほど平らげていた。 しかしその症状は覿面に現れており、顔面は真っ青に、手は吐き気を堪えて震えていた。



「しかしお前、料理もできたんだなあ。」


「あんなもん、説明書見れば誰だってできんだろ。」


「ほんとにすげえなあ・・・でもこんなに食ったら太っちまう・・」


「心配するな、俺はお前が肥満体になろうが愛してやるぞ。」


「ほ、ほんとかあ?」



ザンザスの一言で、俄然勢いづくスクアーロ。彼はすでにあらゆる限界を突破していた。
無我夢中でケーキを摂取する スクアーロの耳には幸か不幸か、ザンザスが小声で呟いた「そんなわけねえだろ」 という台詞は届かなかった。





もはやザンザス様の不幸塾と化した部屋には妙な熱気がこもり、この世とは思えないほど禍禍しい気が 充満していた。悪魔のような笑顔で日本刀を手にした男と、一心不乱にケーキを食らう男。
そっとその様子をドアの影から覗ったベルフェゴールは、気に当てられてその後1週間ベッドから起き上がれなかった。 彼は自分の覗き癖と野次馬根性を、心から反省したという。





「ふ、ふふふ、食べきったぞぉ・・・!!ザンザス・・・!!」


一体どれだけの時間が経ったのであろうか。そして8年の長きにわたりザンザスへの愛とテンションを 維持し続けた執念深き男には、異次元を操る能力が授かっていたのか。
ザンザスの手によって作り上げられた小山の如きケーキは、跡形もなくなって居た。


「ほ、褒めてくれるだろ・・・・」


意気も絶え絶えといった様子でスクアーロは唸った。ザンザスは涼しい顔で、その様子を見つめる。


「ああ、ここまできたら褒めてやる。スクアーロ。」


ベッドの脇で、ザンザスは立っていた。その目はスクアーロだけを見つめていた。スクアーロはその事実だけで 胸が一杯になった。許容量を超えた感慨の波に襲われ、スクアーロの視界が白んだ。彼の意識はよる波に 攫われ、あとは残ったからだが重力に引かれるまま床へと墜落した。かくしてスクアーロという愛ゆえに 盲目となった男は、愛ゆえに忘却の海に沈没したのである。





「ふん・・・・ドカスが。」


憮然とした顔で呟くと、ザンザスは窓を開け、甘ったるい匂いに支配された空気を入れ替えた。
バスルームに行き、体に染み付いたにおいも取り去る。甘いものが大嫌いなザンザスには、 この1週間が地獄のようだった。それも執念で耐え抜いたのだ。自分は良くやった。自分自身を褒めながら、 ザンザスは熱い湯に身を任せた。


すっきりしてバスルームから出ると、スクアーロが倒れていた場所には何もなかった。驚くザンザスの気がそがれた 瞬間、後ろから二本の腕が伸びてきてザンザスを羽交い絞めにした。応戦しようとするまもなく、耳元で ささやかれる。


「ザンザス・・・一杯食ったから、今度は運動しなきゃだよなぁ?」



鼓膜を揺さぶられる刺激に耐え切れず、動きの止まったザンザスをスクアーロはベッドに突き飛ばした。 そして間髪いれずに圧し掛かる。今まで山のようなケーキを丸々食った挙句撃沈した男の動きとは 思えない。すでにスクアーロは妄執の権化と化していた。


「ぐっ・・・・もう復活しやがったのか!」


「ふふ・・・お前の愛が俺を強くするぞぉ・・!」


いや、砂糖相手に強くなってもらってもしょうがねえから、と冷静に突っ込むまもなく、がっしりと頭を 固定されてしまったザンザスの口にスクアーロの舌が容赦なく入り込んできた。
チョコレートクリームの濃厚な甘さが口いっぱいに広がって、ザンザスは吐きそうになった。しかし 頭をつかまれているために離れることも出来ない。ちょうど腹のみぞおちにはまったスクアーロの膝の 効果も相まって、酸っぱいものが喉の奥に込み上げてくる。闇雲にスクアーロの髪の毛を引っ張ったりもするが、 スクアーロはがっちりと吸い付いて離れない。嫌がらせかと思うほどに執拗に口内を弄繰り回されて、 ザンザスは限界だった。
どうにかして離さなければ、その一心で、スクアーロの腹を思い切り蹴り飛ばした。 このとき彼は、スクアーロの膨れきった腹の中身も、そしてその原因もすっかり失念していたのである。


うっ、とスクアーロは低い声で呻いた。ザンザスにはそこまでは聞こえた。
がっとスクアーロの黒い手袋をしたままの 手が口を覆った。ザンザスにはそこまでは見ることが出来た。
そのまま背を丸めたスクアーロから、 なにか地の底を震わすような奇妙な音がした。気がした。
そしてその直後頭から降りかかってきた災難に、ザンザスは一切の思考を捨てざるをえなかったのだった。 まさに自業自得といえよう。しかし代償はあまりにも酷すぎた。ザンザスは、一切考えるのを止めた。
生暖かいゲル状の物体は避けようのない連隊となってザンザスを襲った。ぼたぼたと降り注ぐ それに、ザンザスは一切の対抗手段をもたなかった。口の中に入ってきた瞬間、耐え切れず ザンザスはこみ上げたものを解き放った。











「ボス?ボス?もう・・・・入るわよ?いいわね?まったく・・・・ いっ・・・嫌っ!!キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」




絹を裂いたような乙女の声、を装った男の声がヴァリアー屋敷に響き渡った。それは奇しくも、 この一連の悲劇の終幕を告げる役目を負うに相応しい、悲哀の篭った響きを登場人物の 心に轟かせたのであった。
かくして、ザンザスの復讐劇はかくもはかない結果と散ったのであった。








蛇足


「う、うわ・・・ザ、ザンザス・・・大丈夫かぁ・・・」

「・・・・・・・ふ、ふふふ、あは、あははは」

「わ、悪かったって!今すぐ拭くもん・・・ていうか風呂だな!すまん!」

「いいんだ・・・・もういいんだ・・・・」

「・・・怒らねえのかぁ・・・?」

「いいんだ・・・・」

「(・・・・俺、超愛されてる!!)」



加速する勘違い。







反省。ちょっとスクアーロが可哀想すぎた。